妊娠前に調べておくこと:抗体価・持病・キャリアスクリーニング

佐藤 琢磨

妊娠を考え始めたとき、「何から調べればいいのか」は分かりにくいものです。この記事は検査項目の実務リストです。プレコンセプションケアの考え方そのものはプレコンセプションケアとはにまとめてあります。

なお、妊娠前カウンセリングの国際的な指針では、「今後1年以内に妊娠したいと思いますか」という問いから始めるとよいとされています(PMID: 30575679)。避妊をしている時期であっても、妊娠を計画していてもどちらでも構いません。生殖年齢の間に一度きりではなく、状況が変わるたびに確認するものだとされています。

1. 感染症の抗体価

妊娠中に初めて感染すると赤ちゃんに影響しうる感染症について、すでに免疫があるかを調べます。抗体がない場合は、妊娠前にワクチンを接種しておくという判断ができます。

| 調べるもの | なぜ | |---|---| | 風疹 | 妊娠初期の感染で先天性風疹症候群の原因になります。最も優先度が高い項目です | | 麻疹 | 妊娠中の感染は流産・早産のリスクと関連します | | 水痘(水ぼうそう) | 抗体がない場合、妊娠前の接種が検討されます | | おたふく風邪 | 同上 | | B型肝炎 | 母子感染の対策に関わります |

★風疹・麻疹・水痘・おたふく風邪のワクチンは生ワクチンです。 接種後は一定期間、妊娠を避ける必要があります。接種のタイミングは必ず医師と相談してください。

自治体によっては、風疹の抗体検査やワクチン接種に助成があります。お住まいの自治体の情報を確認してみてください。

2. 性感染症のスクリーニング

妊娠前カウンセリングの時点で、性感染症のスクリーニングが必要かどうかを評価することが勧められています(PMID: 30575679)。クラミジアなどは自覚症状が出にくく、放置すると卵管に影響することがあります。

3. 持病の管理状態

持病がある場合、妊娠前に管理を整えておくことが強く勧められています。 これは妊娠してから対応するより確実です。

とくに次のような疾患は、妊娠の経過に影響しうるため、妊娠前の最適化が推奨されています(PMID: 30575679)。

  • 糖尿病 — 妊娠前の血糖コントロールが重要です
  • 高血圧 — 妊娠中に使えない降圧薬があるため、薬の見直しが必要になることがあります
  • 甲状腺疾患 — 妊娠初期の甲状腺ホルモンは胎児の発達に関わります
  • 精神疾患 — 服薬を続けるか変更するかは、自己判断せず主治医と決めてください

詳しくは妊娠前の持病管理で扱っています。

4. 服用中の薬の確認

処方薬、市販薬、サプリメントをすべて書き出して持参してください。妊娠中に避けた方がよい薬があり、切り替えに時間がかかるものもあります。

★自己判断で中止しないでください。 持病の薬を勝手にやめる方が危険なことがあります。

5. 遺伝子キャリアスクリーニング

一部の遺伝性疾患は、本人に症状がなくても遺伝子を持っている(キャリアである)ことがあります。夫婦ともにキャリアだった場合に、子どもに発症する可能性が出てきます。

国際的な指針では、妊娠前カウンセリングを受ける方には、妊娠中の女性に推奨されるのと同じ遺伝性疾患のスクリーニングを提供すべきとされています(PMID: 30575679)。

対象となることがあるのは、嚢胞性線維症(CF)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、脆弱X症候群などです。ただし、どの疾患を調べるかは人種・地域によって意味が変わります。 日本での実施状況や対象疾患は欧米と異なるため、受けるかどうかを含めて、遺伝カウンセリングのある施設で相談することをお勧めします。

これは任意の検査です。受けないという選択も等しく妥当です。

6. 生活習慣について聞かれること

指針では、飲酒、喫煙・ニコチン製品、処方オピオイドを含む薬物の使用について**routinely(定型的に)**尋ねることが勧められています。また、親密なパートナーからの暴力についてのスクリーニングも、妊娠前カウンセリングの時点で行うべきとされています(PMID: 30575679)。

答えにくい質問に感じるかもしれませんが、責めるために聞くものではありません。

7. 葉酸

神経管閉鎖障害のリスクを下げるため、妊娠前からの葉酸摂取が勧められています(PMID: 30575679)。神経管は妊娠に気づく前に閉じるため、妊娠が分かってからでは遅いという性質があります。

量と上限については葉酸の正しいタイミングにまとめてあります。

8. 歯科

妊娠中は歯科治療を受けにくくなる時期があります。治療が必要な虫歯や歯周病があれば、妊娠前に済ませておく方が楽です。

いつ受けるか

「妊娠したい」と思った時点で構いません。抗体がなくワクチンを接種する場合、接種後に一定期間あけることになるため、数か月の余裕をみておくと安心です。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 全部受けないといけませんか?

A1: いいえ。優先度が高いのは風疹の抗体価と、持病がある場合の管理状態です。遺伝子キャリアスクリーニングは任意で、受けない選択も妥当です。

Q2: どこで受けられますか?

A2: 産婦人科で相談するのが基本です。自治体の助成がある検査(風疹抗体検査など)は、対象医療機関が指定されていることがあります。

Q3: パートナーも受けるべきですか?

A3: 遺伝子キャリアスクリーニングは夫婦そろって受けて初めて意味を持つ検査です。また風疹の抗体は、パートナーが感染源にならないという観点でも確認の意味があります。

Q4: 費用はどのくらいですか?

A4: 項目と施設によって大きく異なり、多くは自費です。自治体の助成が使える検査もあるので、確認してみてください。

まとめ

妊娠前に調べておくとよいのは、**感染症の抗体価、性感染症、持病の管理状態、服用薬、遺伝子キャリアスクリーニング(任意)**です。

全部を一度に受ける必要はありません。優先度が高いのは風疹の抗体価と持病の管理で、この2つだけでも確認しておく価値があります。

「問題が見つかったら怖い」と感じるかもしれませんが、妊娠前に分かれば対応できることがほとんどです。妊娠してからでは選べる手が減ります。

参考文献

  • ACOG Committee Opinion No. 762: Prepregnancy Counseling. Obstet Gynecol. 2019. PMID: 30575679

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佐藤 琢磨

生殖医療専門医

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