数字で見る妊娠と不妊予防

妊活の数字と、その限界

妊娠にまつわる数字は検索すればすぐ出てきます。しかし「その数字が何を言っていないか」はほとんど書かれていません。ここでは生殖医療専門医が、出典とともに数字を並べ、それぞれの限界を併記します。

妊娠のタイミング(生理学)

24h排卵後、卵子が受精能を失うまで変わらない

卵子の寿命は排卵から約24時間。

この数字が言わないこと「排卵日に合わせる」では遅い場合がある。待っているのは精子側。

出典: 生理学 / Physiology

約7日精子が女性の体内で生存できる期間変わらない

精子は卵管内で約1週間生存しうる。

この数字が言わないこと生存=受精能の維持ではない。最も妊娠しやすいのは排卵直前。

出典: 生理学 / Physiology

排卵2日前〜当日最も妊娠しやすい時期変わらない

妊娠可能な期間は排卵5日前〜排卵後1日、そのうち最も高いのが排卵2日前〜当日。

この数字が言わないこと排卵日は前後にずれる。「安全日」は正確に推定できない。

出典: 生理学 / Physiology

約14日黄体期(排卵から次の月経まで)変わらない

排卵の約2週間後に月経が来る=次の月経予定日の2週間前が排卵日。

この数字が言わないこと月経周期が不安定な人はこの逆算が成立しない。

出典: 生理学 / Physiology

約0.3℃排卵後の基礎体温の上昇幅変わらない

体温が上がったこと=排卵が起きたことの事後確認になる。

この数字が言わないこと上昇を確認した時点で妊娠しやすい時期は過ぎている=予測には使えない。

出典: 生理学 / Physiology

妊活の累積妊娠率

15% → 50% → 80% → 90%妊活1・3・6・12ヶ月の累積妊娠率(保守的な目安)変わらない

3→6ヶ月で30ポイント増えるのに、6→12ヶ月では10ポイントしか増えない。

この数字が言わないこと「待てばいつか」ではない。6ヶ月が方針を見直す分岐点。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 17(タイミングを特に合わせない前提の保守的な提示)

38% → 68% → 81% → 92%排卵日を把握してタイミングを合わせた場合の累積妊娠率(1・3・6・12周期)変わらない

ドイツの前向き研究346名。排卵日を知って臨めばこの水準になる。

この数字が言わないこと「なんとなくの性交」ではこの数字は出ない。前提条件が結果を大きく変える。

出典: Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2003;18(9):1959-66.

約半数タイミングを合わせて6周期経っても妊娠しなかった人のうち、妊娠しにくい要因を持つ割合変わらない

6周期は「様子を見る期間」の上限として合理的な根拠がある。

この数字が言わないこと半数は要因を持たない=6周期で妊娠しなくても異常とは限らない。

出典: Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2003;18(9):1959-66.

92% / 86-87% / 82%12周期以内に妊娠する割合(19〜26歳 / 27〜34歳 / 35〜39歳)変わらない

欧州7施設782カップル。性交のタイミングと頻度を補正した解析。

この数字が言わないこと完全に妊娠できない人は年齢によらず約1%。年齢で増えるのは「妊娠しにくさ」であって「妊娠できなさ」ではない。

出典: Dunson DB, et al. Obstet Gynecol. 2004;103(1):51-6.

75% / 66% / 44%妊活開始から1年以内に出産に至る割合(30歳 / 35歳 / 40歳開始)変わらない

流産と加齢による不妊を織り込んだモデル推計。4年以内なら91% / 84% / 64%。

この数字が言わないこと開始を30→35歳に遅らせて失う出産を体外受精が取り戻せるのは約半分、35→40歳では30%未満。「困ったら体外受精」では取り返せない。

出典: Leridon H. Hum Reprod. 2004;19(7):1548-53.

21% → 52% → 73% → 95%避妊しない性交での妊娠率(1・3・6・12ヶ月/若年層)変わらない

20代は人生で最も妊娠率が高い時期。望まない妊娠のリスクも最も高い。

この数字が言わないこと同じ数字が「妊娠したい人には朗報、望まない人には警告」になる。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 11

1〜4% / 月不妊症(1年以上妊娠しない状態)の自然妊娠率変わらない

6ヶ月続けても約20%。

この数字が言わないこと「自然に任せる」を続けても回復しない。時間だけが減る。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 1

卵巣予備能(卵子の数)

3〜5 ng/mL20〜30代前半のAMHの目安変わらない

卵子の残り数の指標。閉経(52歳前後)で0に近づく。

この数字が言わないこと卵子の「質」は反映しない。同年齢でも個人差が極めて大きく、年齢とは相関しない。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 4

1.0 / 2.0 ng/mL臨床で用いる低値側の線(C=低め / B=やや低め)更新されうる

AMH 1.0未満を「低め」、1.0〜2.0を「やや低め」として扱う。ESHRE ボローニャ基準の卵巣予備能低下は1.1 ng/mL未満。

この数字が言わないこと低い=妊娠できないではない。卵子の質は年齢相応に保たれる。

出典: ESHRE Bologna criteria (2011) ほか

20代 4.0 / 30代 2.8 ng/mL高値側の年齢別カットオフ(PCOSの評価に使う)更新されうる

日本産科婦人科学会PCOS診断基準(2024)。40歳以上は基準に記載がないため高値判定を行わない。

この数字が言わないことAMHが高いだけではPCOSと診断できない。月経異常・エコー所見・ホルモン値と合わせて判断する。

出典: 日本産科婦人科学会 PCOS診断基準 2024 / JSOG PCOS criteria 2024

1〜2 ng/mL20〜30代前半でこの値なら「少ない」変わらない

将来授かりたい人数によっては治療を急ぐ判断材料になる。

この数字が言わないこと低い=妊娠できないではない。今月の妊娠率を示す値でもない。

出典: 書籍本文 / Book, 付録3

100人に1人 / 1000人に1人早発卵巣不全の頻度(40歳未満 / 30歳未満)変わらない

若いうちに卵子が尽きる状態。平均初婚年齢の直後に該当しうる。

この数字が言わないこと限りなく0に近づくまで自覚症状がない。月経周期の変化が最初のサイン。

出典: Luborsky JL, et al. Hum Reprod. 2003;18(1):199-206.

25〜38日教科書的な正常月経周期変わらない

順調に妊娠する人は28〜32日が多い印象。

この数字が言わないこと25〜26日と短いのは卵子の残り数が少ない可能性、35〜40日は排卵日の変動が大きい可能性。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 6

不妊治療の妊娠率

1〜4% / 周期タイミング療法の妊娠率(35歳未満)変わらない

3〜5周期の累積で約20%。

この数字が言わないこと1回あたりの失敗率は90%以上。1回に期待しすぎない設計が要る。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 19

4〜8% / 周期人工授精の妊娠率(35歳未満)変わらない

3〜5周期の累積で約30%。

この数字が言わないこと精子を届けているだけで、受精以降の過程は自然妊娠と同じ。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 19

20〜30%体外受精の妊娠率(30歳まで・1回あたり)更新されうる

最も妊娠率が高い治療。1回の採卵で複数の卵子を扱うため効率が良い。

この数字が言わないこと卵子の数を増やす治療でも、質を改善する治療でもない。40歳以上では20%未満。

出典: 日本産科婦人科学会ARTデータ / JSOG ART registry

22〜24mm排卵直前の卵胞径変わらない

排卵日付近で1日あたり約2mm大きくなるため、エコーで排卵日を正確に予測できる。

この数字が言わないこと月経不順やストレスで排卵が遅れる場合も、この方法なら追える。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 19

感染症・がん予防

10〜20人に1人20代前半のクラミジア感染率(日本)更新されうる

感染者との性行為で30〜50%が感染する。

この数字が言わないこと無症状のことが多く、放置すると卵管が閉塞し不妊の原因になる。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 9

生涯50〜80%性行為でHPVに感染する女性の割合変わらない

感染しても2年以内に90%は自然に治癒する。

この数字が言わないこと一部が持続感染し、5〜10年で子宮頸がんに進展する。感染は自覚できない。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 10

年間約1万人 / 約3000人日本の子宮頸がん罹患数 / 死亡数更新されうる

25〜40歳女性のがん死亡原因の第2位。

この数字が言わないこと1〜2年ごとの検診とHPVワクチンでほぼ予防できる=防げている死ではない。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 10

避妊

92〜99%低用量ピルの避妊成功率変わらない

女性が主体的に選べる方法。月4000円程度。

この数字が言わないこと性感染症は防げない。コンドームとの併用が必要。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 11

99%以上IUD(子宮内避妊具)の避妊成功率変わらない

一度挿入すると約5年有効。抜去後はすぐに妊娠可能な状態に戻る。

この数字が言わないこと産婦人科での処置が必要。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 11

80〜90%アフターピルの避妊成功率変わらない

性交後72時間以内の内服が必要。1回2〜3万円。

この数字が言わないこと常用する方法ではない。事前に低用量ピルを始めておく方が確実で安価。

出典: 書籍本文 / Book, Fact 11

検査の基準値

2.5 μIU/mL未満妊活中に目標とするTSH更新されうる

正常範囲にコントロールすることで流産・早産のリスクを下げられる。

この数字が言わないこと甲状腺だけで月経不順を説明することはできない。

出典: 書籍本文 / Book, 付録3

30 μg/dL以上25-OHビタミンDの目標値更新されうる

欠乏時は1日25〜50μg(1000〜2000単位)で補充。月経周期と着床環境の改善が報告されている。

この数字が言わないこと脂溶性で体内に蓄積するため過剰摂取に注意。補充後1〜2ヶ月で再検査。

出典: 書籍本文 / Book, 付録3

32倍以上風疹HI抗体(抗体ありと判定)変わらない

32倍未満ならワクチン接種が推奨される。

この数字が言わないこと生ワクチンのため接種後2ヶ月の避妊が必要。パートナーの抗体も確認する。

出典: 書籍本文 / Book, 付録3

臨床医としての判断基準

以下はガイドラインではなく、著者(生殖医療専門医)が日々の診療で用いている判断の目安です。一般的な基準とは意図的に異なる部分があるため、根拠もあわせて示します。

30歳未満なら6ヶ月、30歳以上なら3〜6ヶ月で妊娠しなければ検査・治療を始めた方がよい

なぜそうするか不妊症の一般的な定義(1年)より意図的に早い。6→12ヶ月で累積妊娠率が10ポイントしか伸びない一方、その間も卵子の質と数は落ち続けるため。

月経周期が25〜26日と短くなってきた人はAMH 0.4〜0.5前後、40〜60日または3ヶ月以上の無月経ではAMH 0.1未満のことが多い

なぜそうするか卵子の残り数が減る過程では、まず周期が短くなり、次に伸びていく。周期の変化は自覚できる最初のサインになる。

子ども1人なら2年計画、2人なら4年計画、3人なら6年計画で逆算する

なぜそうするか妊娠・出産・次の妊娠までの回復を含めると、1人あたり約2年かかる。35歳までに希望する人数を産み終える計画が理想的。

検査で分かること・分からないこと

検査で分かること

  • 卵管が通っているか(卵管造影・通水検査)
  • 運動精子がいるか(精液検査)
  • 排卵が起きたか(黄体期のプロゲステロン)
  • 卵子の残り数の目安(AMH)

検査では分からないこと

  • 排卵後、卵子が卵管に入れているか
  • 卵子と精子が受精しているか
  • 受精卵が胚盤胞まで育っているか
  • 胚盤胞が着床しているか

タイミング療法や人工授精は、どこがうまくいっていないか分からないまま行う治療である、というのが前提になります。