モザイク胚は移植できる?レベル別の成績と、決め方

佐藤 琢磨

PGT-A(着床前染色体異数性検査)の結果が「モザイク」と出たとき、移植できるのか、してよいのかという判断を迫られます。「モザイク胚」とひとくくりにされがちですが、中身によって成績はかなり違います。

PGT-Aそのものの有効性についてはPGT-Aで体外受精の成功率は上がるのかにまとめてあります。この記事はモザイク胚をどう扱うかに絞ります。

モザイク胚とは

胚から採取した細胞の中に、染色体が正常な細胞と異常な細胞が混じっている状態です。検査では、異常な細胞が20〜80%を占める場合にモザイクと分類されるのが一般的です(施設や検査法によって基準は異なります)。

モザイクには種類があります。

  • 全染色体モザイク — 染色体まるごとの本数に異常がある細胞が混じっている
  • 部分(segmental)モザイク — 染色体の一部分だけに異常がある細胞が混じっている
  • 複合モザイク — 複数の異常が混じっている

この区別が、あとで効いてきます。

レベル別の成績

正倍数体胚513個とモザイク胚118個の移植成績を比べた研究があります(PMID: 35469763)。単一の凍結融解胚移植で比較した後ろ向きの研究です。

| | 着床率 | 生児獲得率 | |---|---|---| | 正倍数体胚(513個) | 47.0% | 40.7% | | モザイク胚 全体(118個) | 39.0% | 28.8% | | 全染色体モザイク(72個) | 37.5% | 22.2% | | 部分モザイク(40個) | 47.5% | 45.0% | | 異常細胞60%以上 | — | 10.5% |

読み取れることが3つあります。

1. 全体としては、モザイク胚の方が成績は下がります。 着床率も生児獲得率も、正倍数体胚より有意に低い結果でした。

2. ただし部分モザイクは、正倍数体胚と同等でした。 着床率47.5%、生児獲得率45.0%で、正倍数体胚と変わりません。「モザイクだから低い」とは言えないということです。

3. 異常細胞の割合が高いと、はっきり下がります。 60%以上では生児獲得率10.5%まで落ち、着床した5例のうち3例が流産に至っています。著者らは異常細胞60%以上の胚は移植の優先度を下げるべきだと述べています。

生まれた子どもについて

この研究では、新生児の転帰に正倍数体群とモザイク群で有意な差はありませんでした。 モザイク胚移植で出産に至った34名のうち13名で出生前または出生後の遺伝学的検査が行われ、異常は見つかっていません。

ただし13名という数は、安全性を結論づけるには十分ではありません。検査を受けたのが一部にとどまる点も含めて、まだ分かっていないことが残っています。

移植するかどうか、どう決めるか

正倍数体胚が残っているなら、そちらが優先されます。 判断が必要になるのは、モザイク胚しか残っていない場合です。

このとき選択肢は2つあります。モザイク胚を移植するか、もう1周期採卵からやり直すか。

この2択を年齢別に比較した意思決定モデルがあります(PMID: 38231287)。

  • 43歳未満 — もう1周期のIVF+PGT-Aの方が生児獲得率が高い(平均で+14.5%)。ただし平均$16,633の追加費用がかかる
  • 42歳超 — モザイク胚移植の方が生児獲得率が高く(43〜44歳で+5%、44歳超で+3%)、しかも平均$9,572安い

つまり年齢によって答えが逆になります。 42歳を超えている場合、もう1周期やり直すより、手元のモザイク胚を移植する方が期待値が高い、という結果です。

★これは実際の患者を追跡した研究ではなく、既存の確率と費用を組み合わせたモデル計算です。費用は2023年の米国の医療制度を前提としており、日本の自己負担額には当てはまりません。それでも「年齢によって最適な選択が変わる」という構造は参考になります。

また、43歳未満であっても、経済的・身体的にもう1周期が現実的でない場合は、モザイク胚移植が妥当な選択肢になります。著者らも、カウンセリングは患者と胚ごとに個別化すべきだと述べています。

決める前に確認したいこと

  • どの種類のモザイクか — 全染色体か、部分か。成績が違います
  • 異常細胞の割合はどのくらいか — 60%以上かどうかは大きな分かれ目です
  • どの染色体か — 染色体によって、生まれてくる子どもへの影響の見込みが異なります
  • 正倍数体胚は本当に残っていないか
  • もう1周期が現実的か — 年齢、卵巣の反応、費用、心身の負担
  • 移植した場合、妊娠中の検査をどうするか — 絨毛検査や羊水検査を受けるかを、あらかじめ考えておく

情報が揃わないという問題

モザイク胚の判定基準は、施設や検査会社によって異なります。同じ胚でも別のラボでは違う判定になりうる、という状況が今も続いています。

そのため、「モザイクと言われた」という情報だけでは判断できません。どの検査で、どの基準で、どう判定されたのかを確認する必要があります。担当の医師に、上に挙げた項目を具体的に聞いてみてください。

心の負担について

この判断は、数字だけで割り切れるものではありません。「異常のある細胞が混じっていると分かっている胚を移植する」という決断には、重さがあります。

移植しない選択をすれば「あの胚だったかもしれない」と考え、移植すれば妊娠中ずっと不安が続くかもしれません。どちらを選んでも揺れるのが自然です。

検査結果は、選択肢を増やすために取るものです。結果に従わなければならない、というものではありません。判断に迷うときは、遺伝カウンセリングを受けられる施設で相談することもできます。

よくある質問 (FAQ)

Q1: モザイク胚を移植して、障害のある子どもが生まれることはありますか?

A1: 上に挙げた研究では、新生児の転帰に正倍数体群との差は見られず、遺伝学的検査を受けた13名にも異常はありませんでした。ただし症例数が限られており、「問題は起きない」と言い切れる段階ではありません。移植を選ぶ場合は、妊娠中の検査についてもあらかじめ相談しておくことをお勧めします。

Q2: モザイク胚は捨てるべきですか?

A2: そうとは限りません。部分モザイクは正倍数体胚と同等の成績が報告されており、42歳を超えている場合はもう1周期やり直すより期待値が高いという試算もあります。種類と割合を確認してから判断してください。

Q3: なぜモザイクという結果が出るのですか?

A3: PGT-Aは胚の外側(将来胎盤になる部分)から数個の細胞を採取して調べます。採取した細胞に異常細胞が混じっていた場合にモザイクと判定されますが、胚全体の状態を正確に反映しているとは限りません。 これがモザイク判定の解釈を難しくしている理由の一つです。

Q4: 別の検査会社で調べ直せますか?

A4: 再生検には胚への負担があり、必ずしも勧められません。まずは今の結果について、判定基準を含めて担当医に確認してください。

まとめ

モザイク胚の生児獲得率は全体で28.8%、正倍数体胚は40.7%でした。ただし部分モザイクは45.0%で正倍数体と同等、**異常細胞60%以上では10.5%**と、中身によって大きく違います。

モザイク胚しか残っていない場合、42歳を超えているなら移植する方が、もう1周期やり直すより期待値が高いという試算があります。43歳未満では逆ですが、もう1周期が現実的でないなら移植は妥当な選択肢です。

「モザイク」という一語で決まることはありません。種類、割合、年齢、残っている選択肢を並べて、担当医と決めてください。

参考文献

  • Neonatal and clinical outcomes after transfer of a mosaic embryo identified by preimplantation genetic testing for aneuploidies. Reprod Biomed Online. 2022. PMID: 35469763(後ろ向きコホート。部分モザイクは40例と少数です)
  • Mosaic embryo transfer versus additional IVF with PGT-A Cycle: a decision model comparing live birth rate and cost. J Assist Reprod Genet. 2024. PMID: 38231287(患者を追跡した研究ではなくモデル計算で、費用は米国の前提です)

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この記事を書いた人

佐藤 琢磨

生殖医療専門医

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